2008年度東大数学入試の感想

毎年書いていたと思うので今年も書きます。


1.
(1)「素数」という2文字に一瞬尻込みするが、実は大したことなく、要は、「m_C_i(1≦i≦m-1)がすべてmの倍数である」ことを示せばよい。二項係数の定義が何だか忘れたが、整数であることを前提とすればほぼ明らか。このように定義が間接的に聞かれている問題は不確定要素があるので試験だったら後の方に回していたでしょう。
(2)指示通り、数学的帰納法を用いると何のひねりもなく解けた。
(3)流れ的に(2)を用いるのでしょう。(2)を用いるとしたら「(k^m)-k=(d_m)*(整数)+2…(A)」のように変形できるようなkを探すしかない。手っ取り早く右辺に「2」の項を登場させるには「1+1」くらいしか思いつかない。となるとkに-1の項を登場させるしかなく、kが自然数であることも踏まえると、(A)のようにするにはk=(d_m)-1を代入するくらいしかない。これで駄目なら諦めようと思ったがうまい具合に解けてしまった。
細かいことだが、(d_m)-1=0の場合も大いにあるので(2)がk=0で成り立つことも一応断っておかないといけないのでしょうね。1点減点とかしたのか気になるところです。


2.
(1)計算問題。今年の全小問の中でいちばん簡単。ポイントは「逆行列の公式を覚えているか」というところだけ。
(2)(1)の問題文のBの式を代入して、定番の計算をするだけ。全小問の中で2番目に簡単。
(3)(1)の答えがきれいだから、楽にB^nの一般項が求まってしまう。これを(2)の答えに代入すると自然と題意が示せた。ポイントは「(分母)≠0を示しているか」というところだけ。これはs>1の条件が直接関わってくるので示していないと2〜3点は減点されるでしょう。


3.
条件はややこしいが内容的にはセンターレベルの確率の問題。(2)までなら中学入試の出題としても可能。
(1)何がいつダブルかで場合分け。ちなみに、P_1≒5.5%。
(2)どう考えても(1)の操作(A)だけの確率と等しくなり(1)よりも簡単になるのですが。問題文が理解できているかを問う問題でしょうか。設問の意図がわかりません。
(3)(1)と同様何がいつダブるかで場合分け。うまい具合約分されるので計算はそんなには大変にならなかった。ちなみに、P_3≒21.6%、(P_3)/(P_1)≒3.94。自分の感覚よりもだいぶ大きくなった。
さて、この(3)の答えである(P_3)/(P_1)が何を表しているかを考えよう(ちなみに2年前の積み木ゲームの問題は、高校野球の強さを表すパラメータだと勝手に解釈した)。これはおそらく「ランダムでゲットできるあるグッズのコンプリートを目指すなら、1人で集めるよりも2人で協力したほうがこんなにも効率が良い」ということを表す数値なのだと思われます。
例えば、安倍麻美の1st Single『理由』の通常版初回仕様には全4種類のトレーディングカードのうちどれか1種類だけ付いています(「全4種類」、「トレーディングカード」で検索したら一番上に出てきた)。出やすさ出にくさもあるかも知れませんが、簡単のためにすべてのカードが等しい確率で出ると仮定します。今、A君とB君がこのトレーディングカードをそれぞれコンプリートしようと試みます。さすがに4枚でそろえるのは相当な確率となってしまうのでプラス1枚の5枚でそろえようと考えます。A君とB君が5枚ずつ別々に買った場合、両方がコンプリート出来る確率が(1)の答えであるP_1≒5.49%となります(ちなみに片方だと23.4%)。そして2人で協力して10枚買った場合、両方がコンプリート出来る確率がP_3≒21.6%となり、(P_3)/(P_1)≒3.94が協力したことによる効果を表す数値となります。2人で集めると4倍も集まりやすくなるというのは結構意外な感じがしますね。
例に使った例はあくまで例なので、別に問題作成者が安倍麻美ファンであるとは限りません。このような例はごまんとあります。


4.
(1)y軸回りに回転させているので、定石どおりy=iで切断した断面積を考える。断面図は大きい円錐の底面の円から小さい円錐の底面の円をくりぬいた図形の中心角がπのもの(全体の半分)。普通にy軸で積分して終了。計算が楽で内容的に結構高度であるという良い問題ですね。
(2)流れ的に(1)の答えになるだろうと見当づける。まずV(a)のy=iの断面積は大きい円錐の底面の円から小さい円錐の底面の円をくりぬいた図形の中心角がπ+2θのものよりも小さいので、V(a)≦W(a)+∫_[0,1]θ(1-i^2)di(θはtanθ=(1-i^2)^(1/2)/aを満たす0〜π/2の角)と評価できる。しかしこれ以上は積分ができなくなる。積分するために、θ≦tanθで評価すると分母にaが出てきて、あとは定数となり、第2項が0に収束して解けてしまった。定数項の∫[0,1](1-i~2)^(3/2)diも無駄に積分してしまい時間をロスしてしまった(π/24になった)。積分してから気づきました。これさえも計算しなくてよいとは本当に良い問題ですね。


5.
(1)対数をとって(右辺)-(左辺)>0を示すという定石どおりの方法位しか思いつかないのでそれをやる。2回微分で正負がわかりここでやっと安心。x>0とx<0で丁寧に場合分けして終了。
(2)はじめx=0.0001を代入してみたがどうやっても示せそうにない。次にx=0.01を代入する。0.99^(-99)<1.01^100となり0.99を登場させようと、無理やり0.99^100を両辺にかけると、1.01*0.99=0.9999によりそのまま示せてしまった。下からの評価もx=-0.01を代入して全く同じようにやると解けた。


6.
力学みたいな問題ですね。物理屋さんが作ったのでしょうか。
(1)座標計算でやるととてつもない計算になるので図形的にごまかすしかなさそう。答えのような形にするにはa_1↑からe_1↑-e_2↑に下ろした垂線を考えるしかないので、為すがままにそれをやったら解けてしまった。
(2)e_2↑の始点をe_1↑の始点に持っていって二等辺三角形を作り中学入試で培った角度計算の手法によりθ=(π/6)-((θ_1+θ_2)/2)と求まる。これと(1)の答えを用いて終了。おそらく(1)よりも簡単でしょう。
(3)三角形A_1P_1(T)Oは二等辺三角形なので、P_1(T)Oの長さはθ_1を用いて簡単に求まる。(2)により大体のθ_1の範囲を求めることが出来る。これを用いると結局「sin(5α/2)≦(3)^(3/2)/2000(αはsinα=1/1000を満たす0〜π/2)」を示す問題に帰着された。半角+5倍角を用いれば一応左辺の値は出せるが、とても計算する気が起きないので、適当な三角関数の評価(sin(5α/2)≦(5/2)sinα)を行うと、5≦(3)^(3/2)を示せば良くなり終了。かなり大雑把な評価をしたのになぜか解けてしまった。結局「3」は意味のない値だったみたいですね。本当の最大値はいったい何だったのでしょうか。背景は何かあるのでしょうか。いろいろと謎が残る問題ですね。


時間は25/20/15/25/25/40で、一応制限時間内にはできた。ただ1.(3)は実はネタばれをしていたり、6.は図形的にやった方が良いとヒントをもらっていたので、もしこれが本番だったら90/120くらいでしょう。今回のセットは問題の背景を考えもせずに適当に式を弄ると解けてしまうパズル的な問題が多かった。運が悪いとはまってしまうので、数学ができる人同士では十分差がついたでしょう。あと例年通り不等式の評価の問題が多かったですね。過程が必要十分ではないので解く側はかなりの不安を覚えるがその分解いた達成感は計り知れないものがあります。
どうでもよいが、文系だと理系の1番の問題が(3)だけ削除されて出題されていますね。(1)と(2)が完全に独立した問題となりかなりの違和感を覚えるのは私だけでしょうか。